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Book Guide 文化人類学とその周辺

文化人類学関連書籍のリストです。
解説などが未だ不完全なので、暫定公開です。
そのうちオススメ度なんかもつけてみようかなぁ、と思っていたりします。
この本が抜けている等の情報も是非お願いします。



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▽教科書、入門書と辞典
 エライ人類学者はそれぞれ教科書を書くことが(たぶん他の分野に比べて)多い。で、内容はバラバラ(社会学のギデンズや経済学のサミュエルソン(上)(下)に相当するような定番がない)。いかに「人類学とは何か」という合意がないかが判る。幾つか読み比べてお気に入りを探すべし。
『文化人類学事典』 (縮刷版)
1994 石川栄吉 梅棹忠夫 大林太良 蒲生正男 佐々木高明 祖父江孝男(編) 弘文堂 
 本棚に一冊必携。
『文化人類学15の理論』  中公新書741
1984 綾部恒雄(編) 中央公論社 
 院試前の一夜漬けにに最適な分量と読みやすさ。
・『親族集団と社会構造』
1982 R.M.キージング(著) 小川正恭他(訳) 未来社 
 親族論の概念整理。学部レベルの教科書と言える。
『社会人類学の二つの理論 』 ※絶版
1977 ルイ・デュモン(著) 渡辺公三(訳) 弘文堂 
 親族論の概念整理。大学院レベルの教科書だと考えればよい。
『文化人類学を学ぶ人のために』 1991 米山俊直, 谷泰(編)
  『現代人類学を学ぶ人のために』 1995 米山俊直(編)
世界思想社   
 セットで読むべし。他にも『言語人類学を学ぶ人のために』『生態人類学を学ぶ人のために』などもあり、いずれも教科書として良書。
『社会人類学案内』
1985 E.リーチ (著) 長島信弘(訳) 岩波書店 
 
『現代思想 6月号』(vol.26-7) 特集:文化節合のポリティックス
1998 青土社  
 

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▽古典
 
・『世界の名著 71 マリノフスキー・レヴィ=ストロース 』
1980 マリノフスキー (著)  寺田 和夫 (訳) 中央公論新社 
 世界最初の人類学的フィールドワーク、ってことになっているマリノフスキーの「南太平洋の遠洋航海者たち」とレヴィ=ストロースの「悲しき熱帯」のカップリング。お得な感じも受けるが、所詮抄訳なのでレヴィ=ストロースは全訳のある別途『悲しき熱帯〈1〉』〈2〉を買った方がよい(文学作品を抄訳してどうするのだ)。そうなると、マリノフスキーも別途買いたくなるが、実は単行本が出ていないので、これを買うしかない。困った。困ったついでに現在のところこの本自体も在庫がないらしい。比較的古本屋で見つけやすいので探してみるべし。なお、著者の死後同じフィールドワークについての日記が公刊された(『マリノフスキー日記』)ので合わせて読むとフィールドワークとは何かが判る…かも知れない。
『社会学と人類学 1』
1973 M.モース(著) 有地亨(訳) 弘文堂 
 第二章が有名な「贈与論」である。
『ヌアー族: ナイル系一民族の生業形態と政治制度の調査記録』 平凡社ライブラリー 219
 1997 E.E.エヴァンズ=プリチャード (著), 向井元子(訳) 平凡社
 ヌアーはNuerの英語読みで、本来はフランス語ふうに読んで「ヌエル」と発音するのが正しいようである。民族誌として、上記マリノフスキーと並んで古典中の古典。多様な分野の多様な論者に引用されている。ただし、エヴァンズ=プリチャードは基本的に軍人としてスーダンに赴いており、厳密な意味でアカデミックな「研究」ではないとも言える。この「植民地性」に関しての批判的な検討も多い。
『ヌアー族の宗教』上 平凡社ライブラリー 83
  『ヌアー族の宗教』下 平凡社ライブラリー 84
 1995 E.E.エヴァンズ=プリチャード (著), 向井元子(訳) 平凡社
 上記『ヌアー族』と、それだけライブラリーに入っていない『ヌアー族の親族と結婚』と共にヌアー族三部作を形成。
・『イシ: 二つの世界に生きたインディアンの物語』
1997 シオドーラ・クローバー(著) 中野好夫, 中村妙子(訳) 岩波書店
 ヤヒ族最後の一人としてカリフォルニア大のアルフレッド・クローバーに保護されたイシと、彼を巡る人々の物語。
 アメリカ人類学の開祖F.ボアズの後継者と目されたクローバーは、しかし一方で他者について特権的な立場から記述することを嫌い、後半生において殆どエスノグラフィを残していない。本書は、クローバーの死後、妻シオドラによって書かれた回顧録である。なお、20世紀ファンタジーの最高傑作と言われる『ゲド戦記』のル=グゥインはクローバーの実子である。
『インボリューション: 内に向かう発展』
2001 クリフォード・ギアーツ(著) 池本幸生(訳) NTT出版 
 水田文化と焼き畑文化では生産物や労働の配分の仕方が違う、という話をインドネシアを事例に議論している。日本についても若干の言及がある。極めて大きな論争を巻き起こした本だが、ギアツ自身はその後、このテーマについて殆ど言及がない。歴史系の人の評価(例えば宮本謙介『インドネシア経済史研究』参照)と経済や地域研究系の人(例えば原洋之介『クリフォード・ギアツの経済学』参照)でまったく評価が違うのが面白い。長らく翻訳が出なかった(そういえば私が初めて読み通した英語の専門書である)。
『解釈人類学と反=反相対主義』
2002 クリフォード・ギアツ(著) 小泉潤二(訳) みすず書房 
 英語版では最新の著作(2002年現在)である"Available Light"(自然光)に収められている
「反=反相対主義」を収録。…"Available Light"を翻訳するときどうするんだよ!!
・『ブリンジ・ヌガグ: 食うものをくれ』
1974 コリン・M.ターンブル 幾野宏(訳) 筑摩書房 
 ターンブルが調査に訪れたイクの村は政府の環境保護政策によって住む場所と狩り場を失い、飢えに苦しむ人々の村であった。そこには、日々の食べ物を得るためにウソや策謀を重ね、親や死にかけた友人からも物を奪おうとする極限の人々の姿であった。ピーター・ブルックが芝居の題材に取り上げるなど、その内容が全世界に衝撃を与えた歴史的エスノグラフィー。個人的には、それでも食べてるところを誰かに見られたら(それがたとえ自分より明らかに喰っている西洋人であろうと)食べているものを分け与えなければ行けない(だから食べ物を手に入れた物はなるべく村から離れた藪の中で隠れて食べる)という狩猟採集民エトスの強さに驚いた。同著者に『豚と精霊: ライフ・サイクルの人類学』
がある。
『社会構造: 核家族の社会人類学』 新版
2001 G.P. マードック(著) 内藤莞爾(訳) 新泉社 
 マードックは戦時中の日本研究や民族学データベースであるHuman relations area files (HRAF)の編纂で有名。本書は「核家族」概念を提示したことで歴史的な書。
『須恵村の女たち: 暮しの民俗誌』
1987 ロバート・J・スミス, エラ・ルーリィ・ウィスウェル(著) 斎藤尚文(訳) 
 シカゴ大出身のジョン・エンブリーが戦前に熊本県球磨郡須恵村に滞在して『日本の村落社会: 須恵村』(植村元覚訳 1955 関書院)と題されたエスノグラフィを書いた。しかし、その間ジョンに同行した婦人エラのほうが村の主婦たちと井戸端で野菜を洗い、子どもをあやし、また焼酎を共に酌み交わす生活をすることにより、より深く村の事情に通じていった。これは婦人が自ら著した村の記録であり、今では夫の著作以上に高い評価が与えられている(ウィスウェルは再婚後の姓)。日本についての社会人類学的見地からの紹介は極めて珍しいという点でも必読。
『菊と刀』 定訳 現代教養文庫 A501
1967 ルース・ベネディクト(著), 長谷川松治(訳) 社会思想社
 ボアズの高弟として文化パーソナリティ論を編み上げたベネディクトの、あまりに有名な日本論。ボアズは彼女をコロンビア大での後任にと望んだが、格式にこだわる大学は女性で、バツイチで、身体障害者で、カミングアウトしているレズビアンであるベネディクトを教授に据えることをいやがった。そのためボアズがその職を退くと同時にベネディクトも行き場を失ってしまうのだが、そういった背景に一切こだわらず優秀な人材を求めていた組織が当時のアメリカにただ一つだけあった。軍である。という過程で彼女は敵国日本の文化についての研究を行った。
 当時の背景説明としては『日本人の行動パターン』も併読のこと。
『呪術師と私: ドン・ファンの教え』
1974 カルロス・カスタネダ(著) 真崎義博(訳) 
 20世紀の人類学史上、その意義について最も大きな議論を巻き起こしたといっても過言ではない。エスノメソドロジーの開祖ガーフィンケルの学生だったカスタネダはドン・ファンというインディアンに弟子入り。幻覚剤(ペヨーテ)などを使った儀式を経験し、それをまったく経験した(感じた)ままに記述している。読者はどこまでが事実でどこまでが幻覚なのか(あるいはそもそもドン・ファン自体がカスタネダの創作なのか)については一切の手がかりを与えられない。
 なお、続刊が(本国での出版順に)『呪術の体験 A Separate Reality』『呪師に成る Journey to Ixtlan』『未知の次元 Tales of Power』(なぜかこれだけ文庫化)、『呪術の彼方へ The Second Ring of Power』『呪術と夢見 The Eagle's Gift』『意識への回帰 The Fire from Within』『沈黙の力 The Power of Silence』『夢見の技法 The Art of Dreaming』『呪術の実践 Magical Passes』『無限の本質 The Active Side of Infinity』(←2002年の新刊!!)と続くが、後になればなるほど商売っけが出てくる(そもそもカスタネダ自身が書いていないと言うウワサもあるらしい)ので、あまりオススメしない。ちなみにカスタネダ氏については数年前アメリカ人類学会のジャーナルに訃報が掲載されたが、年齢は「推定XX歳」という表記になっていた。最後まで謎の人物であった。
『儀礼の過程』
1996 ヴィクター・W. ターナー(著) 冨倉光雄(訳) 新思索社 
 
『親族の基本構造』 新訳
2000 クロード・レヴィ=ストロース(著) 福井和美(訳) 青弓社 
 長らく絶版で、ボクも学部時代に読みにくい訳とコピーで四苦八苦しながら読んだ本である。待望の新訳。以下、レヴィ=ストロース主要著作リスト。
『悲しき熱帯〈1〉』〈2〉 中公クラシックスW3, W5
2001 クロード・レヴィ=ストロース(著) 川田順造(訳) 中央公論新社
 ユダヤ系であるレヴィ=ストロースが親独政権に支配されたフランスを逃れて南米にむかい、そこでのフィールドワークの後にアメリカ合衆国へ移る旅の回顧録。失われていく文化への郷愁が、著者の文才によって切々と伝わってくる文学的名著、と評されている。勿論、最近はそういうのは評判悪いですが…。これを読んで文化人類学を志したヒトも多いはず。
『野生の思考』
1976 クロード・レヴィ=ストロース(著) 大橋保夫(訳) みすず書房 
 レヴィ=ストロースの翻訳としては悪い方ではないが、『やきもち焼きの土器つくり』のほうが読みやすい。また入門向けには『神話と意味』がオススメ。
『構造人類学』
1972 クロード・レヴィ=ストロース(著) 荒川幾男(訳) みすず書房 
 そのまんま「構造人類学」のマニフェストになる論文集。やや読みにくい。
『人種と歴史』
1970 クロード・レヴィ=ストロース(著) 荒川幾男(訳) みすず書房 
 文化を共有する集団を人種と見立てて、文化的差異の保存を訴えたことによって広い議論を読んだ書。同意できるか否かは兎も角、現代の文化観、文化政策に多大な影響を与えていることは確か。
 レヴィ=ストロース主要著作リストここまで。
『精神と自然: 生きた世界の認識論』 改訂版
2001 グレゴリー・ベイトソン(著) 佐藤良明(訳) 新思策社 
 小品ながら、ベイトソンの主著というべき作品。人間の認識についての諸概念を整理するという意味では、人類学や心理学のみならず、学問に携わるものすべてにとって有用と言うべきであろう。
 以下、ベイトソン主要著作リスト。
『新版 天使のおそれ: 聖なるもののエピステモロジー』
 グレゴリー・ベイトソン, メアリー・キャサリン・ベイトソン(著) 星川淳(訳)  
 ベイトソンが企画していた新刊を、彼の死後娘のM.C.が加筆して完成させた。豊富な事例、娘の素朴な疑問に答える父、という形で展開される議論など、わかりやすく書かれており、入門にはよりオススメ。書名はフォスターの『天使も踏むを恐れるところ』から。
『精神のコミュニケーション』 新装版
1995 G. ベイトソン, J. ロイシュ(原), 佐藤悦子, ロバート・ボスバーグ(訳) 新思索社 
 名高い「ダブルバインド」理論を提唱した本。
『精神の生態学』 改訂第2版
2001 グレゴリー・ベイトソン(著) 佐藤良明(訳) 新思策社 
 人類学、心理学、哲学的領域にわたるベイトソンの論文をまとめた大著。
『バリ島人の性格: 写真による分析』
2001 グレゴリー・ベイトソン, マーガレット・ミード (著) 外山昇(訳) 国文社 
 未読。すんません。
『娘の眼から: マーガレット・ミードとグレゴリー・ベイトソンの私的メモワール』
1993 メアリー・キャサリン・ベイトソン(著) 佐藤良明, 保坂嘉恵美(訳) 国文社 
 ミードとベイトソンを通して、サピアやベネディクトら今世紀初頭のアメリカ人類学者たちの隠された側面が見える。ベイトソンの議論の理解に貢献すると同時に学説史的関心も満たしてくれる良書。ベイトソン主要著作リストここまで。
・『原始社会』
1979 ロバート・H.ローウィ(著) 河村只雄, 河村望(訳) 未来社 
 ローウィはボアズ門下の人類学者。民族誌資料を駆使して、モルガンに代表されるそれまでの進化主義を批判。
『未開社会における構造と機能』
1981 ラドクリフ・ブラウン(著), 青柳まちこ(訳) 新泉社 
 2002年、新版が出た模様。

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▽人類学の危機
 
『文化批判としての人類学―人間科学における実験的試み』 文化人類学叢書
1989 ジョージ・マーカス マイケル・フィッシャー(著) 永渕 康之(訳) 紀伊国屋書店
 『文化を書く』と並んで、文化人類学の動向を決定づけたといっても過言ではない重要文献。
 
『文化を書く』 文化人類学叢書
1996 ジェームズ・クリフォード マイケル・フィッシャー(著) 春日直樹, 足羽与志子, 橋本和也, 多和田裕司, 西川麦子, 和邇悦子 (訳) 紀伊国屋書店
 
『オリエンタリズム〈上〉』 平凡社ライブラリー〈11〉
  『オリエンタリズム〈下〉』 平凡社ライブラリー〈12〉
1993 エドワード・W. サイード (著) 今沢紀子(訳) 平凡社
 他者を表象する権利を持つ者がオリエンタリストであり、オリエントとはただ無為に表象されるだけの存在である。西欧の第三世界(主にアラブ)表象の恣意性を歴史的に明らかにし、その背後にある普遍主義的前提をあぶり出すことに成功した歴史的大著。人類学にはあまり言及がないが、人類学者は大きな衝撃を受けた。続編と言える『文化と帝国主義〈1〉』〈2〉の刊行も続いている。
『文化と真実: 社会分析の再構築』
1998 レナード・ロサルド(著) 椎名美智(訳) 日本エディタースクール出版部
 
『トランスポジションの思想: 文化人類学の再想像』
1998 太田好信(著) 世界思想社 
 

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▽ポスト植民地主義、ポスト・マルクス主義、抵抗論とサバルタン研究
 
『貧困の文化: メキシコの〈五つの家族〉』
1985 オスカー・ルイス(著) 高山智博(訳) 思索社
 ベネディクトの元で学んだルイスは、人類学の対象を「未開」から現代へと広げる先駆けを担った人物である。「貧困の文化」論は貧者のおかれた状況を明らかにしたという成果を讃えられる一方、社会構造を無視して貧困の原因を彼ら自身に帰すものであるという批判も浴びた。また、多様なインフォーマントの視点から一つの現実を浮かび上がらせる「羅生門的手法」という言葉でも有名。他に『サンチェスの子供たち: メキシコの一家族の自伝』やピュリッツァー賞をとった『ラ・ビーダ』 (1), (2), (3), がある。
 2003年、ちくま学芸文庫で復刊!!
『モーラル・エコノミー: 東南アジアの農民叛乱と生存維持』
1999 ジェームス・C.スコット(著) 高橋彰(訳) 勁草書房 
 モーラル・エコノミーはイギリスの左派歴史学者 E.P. Thompson に由来する概念。社会システムとそれを保証する文化やモラルは、成員の生存維持を保証するような形で変化すると論じられる。同著者の物としては"Weapons of the Weak : Everyday Forms of Peasant Resistance"が有名であり、ここから「抵抗論」が派生する。
『サバルタンは語ることができるか』 みすずライブラリー
1998 G.C. スピヴァク (著) 上村忠男(訳) 勁草書房 
 R. グハを中心に、これまで光を当てられてこなかった民衆の視点からインド史を読み直そうというグループが採用したのがイタリアのマルクス主義者グラムシのサバルタン(被従属階級)という概念である。彼らの『サバルタンの歴史』に対して、デリダ『根源の彼方に: グラマトロジーについて (上)』(下)(1972 足立和浩訳 現代思潮社)
の英語版翻訳で名をなした在米インド人思想家スピヴァクが応答。ともすれば愛国主義的に傾きがちなインド・サバルタン・グループの歴史観に関して、デリダを援用しつつ真のサバルタン(言葉を失った者たちとしての)の条件を探る。日本語版は名訳であり、解説もわかりやすいのでオススメ。同じ翻訳者によるグラムシの『知識人と権力』も参照のこと。
『都市を飼い慣らす: アフリカの都市人類学』
1996 松田素二(著) 河出書房新社 
 

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▽政治人類学とポスト・モダニズム
 
『国家に抗する社会: 政治人類学研究』 叢書言語の政治2
 1987 ピエール・クラストル (著), 渡辺公三(訳) 白馬書房
 未開人は国家を知らないのではなく、国家の支配を逃れるためにかような文化と生活を守っているのだと論じ、ドゥルーズとガタリの有名な『千のプラトー』等の国家論に強い影響を与えた。同著者には『大いなる語り: グアラニ族インディオの神話と聖歌』もある。
『歴史の島々』 叢書ウニベルシタス413
1993 マーシャル・サーリンズ (著)  山本真鳥(訳) 法政大学出版局 
 唯物論人類学(ミシガン学派)の若き旗手として名をはせていたサーリンズは、フランス高等社会学研究院のレヴィ=ストロースのもとでサバティカル中にクラストルと親交を持ち、思想的影響を受ける。クラストルの夭折後、帰国したサーリンズはオセアニア学会での講演において構築主義陣営への劇的な転進を宣言する。その講演は我が国でも上野千鶴子によって紹介され有名になったが、本書に収められた「外来王、またはフィジーのデュメジル」がそれである。

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▽経済人類学
 
『経済人類学への招待: ヒトはどう生きてきたか』 ちくま新書013
1994  山内昶(著) 筑摩書房
 どういうわけか、人類学の新書はあまりお薦めできるものがないのだが、これはなかなかよく出来た入門書である。経済人類学は比較的教科書が書きやすいと言うのもあるかもしれない。
・『石器時代の経済学』 叢書ウニベルシタス133
1984 マーシャル・サーリンズ (著)  山内昶(訳) 法政大学出版局 
 
『新不平等起源論: 狩猟=採集民の民族学』 叢書ウニベルシタス505
1995 アラン・テスタール(著) 山内昶(訳) 法政大学出版局 
 
『食と文化の謎』 岩波現代文庫 2001 板橋作美(訳)
 『ヒトはなぜヒトを食べたか: 生態人類学から見た文化の起源』 ハヤカワ・ノンフィクション文庫210 1997 鈴木洋一(訳)
マーヴィン・ハリス (著) 
 一般に文化人類学では「食人」はその相手の力を呪術的に手に入れるためにおこなうと解釈する。ところが、ハリスのみは人間にとって最も効率よく栄養を補給できる食材こそは人間であり、こうした栄養学的要請の結果として食人が行われると論じる。異端の人類学者による刺激的で挑戦的な論考。ちなみに『人喰いの神話: 人類学とカニバリズム』(1982 W.アレンズ 折島正司訳 岩波書店)のように、カニバリズムに関する全ての記録はでっち上げか誤解に基づくものだ(人は決して人を食べない)という主張もあったりしてややこしい。

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▽認知
 
『状況に埋め込まれた学習: 正統的周辺参加』
1993 ジーン・レイヴ, エティエンヌ・ウェンガー (著) 佐伯胖(訳) 産業図書
 ちょっと長いですが拙稿を参照していただけると嬉しいです。
『日常生活の認知行動: ひとは日常生活でどう計算し、実践するか』
1995 ジーン・レイヴ (著) 無藤隆, 山下清美, 中野茂, 中村美代子 (訳) 新曜社
 ちょっと長いですが拙稿を参照していただけると嬉しいです。
『プランと状況的行為: 人間‐機械コミュニケーションの可能性』
1999 ルーシー・A. サッチマン (著) 佐伯胖, 上野直樹, 水川喜文, 鈴木栄幸 (訳) 産業図書
 

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▽医療
 
『医療人類学: 世界の健康問題を解き明かす』
1995 アン・マッケロイ, パトリシア タウンゼント(著) 丸井英二, 杉田聡, 春日常, 近藤正英(訳) 大修館書店 
 医療人類学の定番。入門用にしてはちょっと大部だが、重宝。

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▽隣接分野 社会学編
 
『ハマータウンの野郎ども』 ちくま学芸文庫
1996 ウィリス・ポール 筑摩書房 
 元祖カルスタ、英バーミンガム研所属の著者による歴史的名著。原題は『労働を学ぶ』であり、労働者階級の抱く学校を中心とする社会体制への反逆心が、どのように社会へ順応する生産的な労働者へと転換されていくかについて、高校生活のエスノグラフィからときおこす。階級の境界がハッキリしているイギリスではこういった研究は成立しやすいというのはオーウェルの『ウィガン波止場への道』などを想起していただければ判るとおりであろう。
 なお、人類学的エスノグラフィへのクレームにある程度のページが割かれており、そこへの反応としては『文化批判としての人類学』がある。
『都市とグラスルーツ: 都市社会運動の比較文化理論』
1997 マニュエル・カステル(著) 石川淳志(訳) 法政大学出版局 
 800ページに及ぶ大著。ちなみに14,000円。
 著作としては他に『都市・情報・グローバル経済』『都市問題』『都市・階級・権力』等がある。
『単一民族神話の起源: 「日本人」の自画像の系譜』
  『「日本人」の境界: 沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮』
1995,1998 小熊英二(著) 新曜社 
 『単一民族…』は、主に柳田ら民俗学の言説を中心に、「日本人は単一民族である」という議論を呼んだ神話がどこから派生したかを論じた本。後者はさらに発展させて、なぜ日本の境界は北海道と沖縄までで、台湾や朝鮮を「日本」から切り離すことになったかという、国民国家の境界線について論じている。
『構築主義の社会学: 論争と議論のエスノグラフィー』 Sekaishiso seminar
2000 平英美, 中河伸俊 (編) 世界思想社
 構築主義をめぐるウールガー・キツセ論争関連の4論文と、構築主義の実例になる4論文を収録。

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▽隣接分野 歴史編
 
『子供の誕生』
1981 フィリップ・アリエス(著) 杉山光信, 杉山恵美子(訳) みすず書房
 子ども、という概念は人々が思っているほど普遍的なものではない。未完のオトナにすぎなかった年齢層が「子ども」というカテゴリーで捉えられ、保護や教育の対象となったのは比較的最近のことであることを論証。歴史的事件や偉人・英雄の歴史ではなく、庶民の思想や生活をあつかう社会史という分野の確立と普及に大きな影響を与えた本。
『想像の共同体: ナショナリズムの起源と流行』 増補版
1997 ベネディクト・アンダーソン(著) 白石さや,白石隆(訳) NTT出版 
 ナショナリズム研究の最重要古典。国家がその歴史、伝統、言語の共有よりも、ある種の幻想によって統一性、単一性を維持していると主張。自分のフィールドであるインドネシアについては『言葉と権力: インドネシアの政治文化探求』でより詳しく展開されている。
『創られた伝統』 文化人類学叢書
1992 エリック・ホブズボウム, テレンス・レンジャー(編) 前川啓治, 梶原景昭(訳)  紀伊国屋書店 
 
『リオリエント: アジア時代のグローバル・エコノミー』
2000 アンドレ・グンダー・フランク (著)  山下 範久(訳) 藤原書店
 サミール・アミンと並ぶ、かつての従属理論の雄 A.G.フランクが(事実上従属理論を放棄して)いどむ世界史の新解釈、待望の翻訳。
『ブラックジャコバン: トゥサン=ルヴェルチュールとハイチ革命』 ペリフェリ選書
1991 C.L.R.ジェームズ (著)  青木芳夫(監訳) 大村書店
 フランス革命に呼応して、仏領ハイチの奴隷たちも自由のために蜂起した。しかし理念としては人類の自由と平等を唱うフランス革命の理念も、貴族ではなくブルジョワであるプランテーション経営者たちに支配されているハイチには届かなかった。人類的理念とその裏切りの歴史。

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▽人類学前史
 タイラー、モルガン、フレイザーらによって「未開社会」が研究の対象として見いだされたのち、マリノフスキーらによってフィールドワークという手法が確立される以前の文献を「前史」としてあつかう。
『古代社会 上巻』 岩波文庫 白 204-1
  『古代社会 上巻』 岩波文庫 白 204-2
1958〜1961 L.H.モルガン(著) 青山道夫(訳) 岩波書店 
 タイラー、モルガン、フレイザーの主要著作の中では最も安定して、ちゃんとした翻訳が手に入る。今でも必読文献の一つであろう。…なぜコンスタントに手にはいるかというと、たぶん人類学者以外も引用するからなんだよね。で、その背景にはエンゲルスに言及されていることがあるだろう。
・『原始文化: 神話・哲学・宗教・言語・芸能・風習に関する研究』
1962 E.B.タイラー(著) 比屋根安定(訳) 誠信書房 
 逆に、こちらは最も入手が難しい本になっている。私も見たことありません。Webcat上のデータとしては登録されているので、これらの大学から取り寄せるしかないであろう。
 今回、このリストをつくっていて初めて気がついたのであるが、訳者の比屋根安定は非常に面白そうな人物である。沖縄協会のサイトの記事には「沖縄出身の宗教学者で青山学院大学神学部教授であった」とある。無論クリスチャンであろう。一度調べてみる価値がありそうだ。
『文庫 金枝編 5冊セット』 岩波文庫
1996 フレイザー(著) 岩波書店 
 呪術から宗教を経て科学へという人間精神の進化的過程を提示。また、王はなぜ殺されるか、などのモチーフで多大な影響を与えた本。で、あるが、原著は13巻に及ぶ大著であり、日本語はいずれも抄訳…だと思う。『図説金枝篇』のほうが入手は容易か。※2003年、ちくま学芸文庫判『初版金枝篇』が発刊された。
『宗教生活の原初形態 上』 岩波文庫 白 214-1
  『宗教生活の原初形態 下』 岩波文庫 白 214-2
1975 エミル・デュルケム(著) 古野清人(訳) 岩波書店 
 『自殺論』で有名なデュルケムである。社会学の始祖の一人として語られるが、モース、レヴィ=ストロースと続くフランス人類学の源流でもある(フランスでは人類学と社会学の間にアメリカほど溝がない)。本書ではオーストラリアのトーテムに材をとり、人間の生活を「聖」と「俗」の二つに切り分けた上で、「聖」(に属する宗教活動)が個人的であるよりは集合的な活動の所産である点を強調している。
『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 改訳版 岩波文庫 白 209-3
1989 マックス・ヴェーバー(著) 大塚久雄(訳) 岩波書店 
 説明もいらないほど有名な著作。
『家族・私有財産・国家の起源』 岩波文庫 白 128-8
1965 フリードリッヒ・エンゲルス(著) 戸原四郎(訳) 岩波書店 
 言わずと知れた「マルクスとエンゲルス」のエンゲルスである。ここでエンゲルスは上に紹介したモルガンの『古代社会』に寄りながら、原始共同体から奴隷制、封建制、を経て近代資本主義に至るという発達主義を提示した。
『未開社会の思惟 上』 岩波文庫 白 213-1
  『未開社会の思惟 下』 岩波文庫 白 213-2
1991 レヴィ・ブリュル(著) 山田吉彦(訳) 岩波書店 
 未開社会の認識原理の多様性を論じたという意味で、認識人類学の始まりを告げる書。未開社会を因果律や矛盾律を理解しない人々と描いていたが、ブリュルの存命中にもフィールドワークなどの成果がその誤りを明らかにし、最終的にはブリュル自身も自説を撤回するに至った。
『通過儀礼』  1995  綾部恒雄, 綾部裕子(訳) 弘文堂
  『通過儀礼』  1999 秋山さと子, 弥永信美 (訳) 新思索社
 Arnold van Gennep (原著),   
 van Gennep(オランダふうにヘネップと呼んだり、英語ふうにジュネップと呼んだり)のイニシエーション論は、文化人類学の議論の中で一番とっつき安いところであろう。故に、ってわけでもないだろうが、訳が幾つかあるのである。

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▽グローバリゼーション
 
『ポスト・アメリカ:世界システムにおける地政学と地勢文化』
 1991 ウォーラスティン,エマニュエル(著) 丸山勝(訳) 藤原書店
 

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