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牛糞粘土と瞑想
 :アンチ・グローバリゼーション、エコ・ツーリズムと生物多様性

 本発表では以下の二点について論じられる。
 1.第三世界で展開されている反グローバリゼーション、反近代科学・技術の運動が、現在どのような展開を見せているか、また今後どのような可能性を有するか。
 2.その際に、先進国と第三世界の関係はどのようなものであり得るか。例えば、エコ・ツーリズムがどのような関係(の変容)をもたらしうるか。

 この二点に直接関わっている第三世界におけるNGO運動を、ここでは事例として取り上げる。
 近年、文化人類学的視点からNGO活動に焦点を当てる研究への要請が高まっており、また実際文化人類学者がそういった問題を扱うケースも増加している。開発や医療といった、人類学にとって比較的新しい問題群に比べてもさらに新しいこの分野は、動向を判断するに足る歴史を有していない。しかし多くの場合、それらは「先進国の知識と政治的リーダーシップにより第三世界において展開される運動」を扱っていることが多い。こうしたケースが多いというのは、現代社会の政治的、経済的実状を繁栄した事実ではあろう。しかしその一方で、反グローバリゼーション運動において第三世界側がイニシアティヴを握ることは必ずしもまれではなくなってきた。そして、こうした動きは今後益々加速すると思われる。
 発表者は2001年9月から11月にかけてインドを訪れ、世界的に有名な環境と女性問題に関する活動家であるヴァンダナ・シヴァ氏の主宰する一連の活動に触れる機会を得た。シヴァ氏は先進国でも特に知られた活動家であり、ナヴダーニャと名付けられた有機農業運動を中心とする氏のNGOはマレーシアの Third World Network 等と並んで、第三世界から先進国に対するイニシアティヴを取れる活動の代表例である。ここでは、ナヴダーニャにおける、特に反近代化品種をキャッチ・フレーズにした有機農業運動のインド農村への展開と、ちょうど発表者が訪れた頃に始まったばかりであったエコ・ツーリズムに関わる活動の関係性に着目したい。これらは一見異なった目的を持つ別々の活動であるように見えるが、ナヴダーニャはこれらを相互に関係づけることに成功している。
 第一に有機農業運動自体の可能性がある。ラングトン・ウィナーが述べるように、適正技術(Appropriate Technology)はその経済学における対称物(つまり適正経済)である社会主義や共産主義に比して、思想的伝統性も政治運動としての民衆動員能力も遥かに劣っている(ここで言う適正技術の思想とは、ウィナーによれば、エマソンやソロー、バックミンスター・フラー、ホール・アース・カタログなどである)。しかしながら、先進国においてはともすると中産階級の贅沢と見なされがちな有機農業運動が、第三世界的視点からは現実的な経済手段であるばかりか、適正技術思想を統合された運動にすることを可能ならしめる幾つかの要素を含んでいることを指摘したい。
 エコ・ツーリズムにおいては、我々先進国のまなざしが期待する「現地」像と、現地の人々が先進国のまなざしに出会ったときに彼ら自身が内面化するであろう自己像とのギャップがあることは多くの論者が指摘するところである。シヴァ氏のグループでは、これを、「生物多様性」といった言葉によって繋ぐことにより、相互に誤解を内包させつつも場や目的の共有が可能になっていることを示す。
 我々がエコ・ツーリズムにおいて、地球環境について多くの現実と可能性を学ぶ一方で、先進国のまなざしが現地に自信を与えることによって有機農業運動の動員能力は高まるのである。こうしたポジティヴな共生が可能な条件を考察することが重要であるのは無論であるが、一方でこうした関係から欠落するものについても眼を配っていく必要があろう。
 
 なお、発表者のサイトにインド滞在中の簡単な報告を掲載している。
  http://www.mars.dti.ne.jp/~skasuga/works/india2001a.html
 また、発表の一週間程度前に配布資料を公開の予定であり、ご参照いただければ幸いである。
  http://www.mars.dti.ne.jp/~skasuga/works/jse_am2002.html





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