【書評?】 機動戦士ガンダム THE ORIGIN(9) シャア・セイラ編・前
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アニメ版では描かれていないシャアとセイラの幼き日々を扱った外伝的な章。9巻では父ジオン・ズム・ダイクンが腹心であったザビ一族に暗殺されてから、幼い二人が地球に脱出するまで。ザビ家が権力の座につくまでのサイド3の事情は今まで描かれたことがなかったと思うけれど、基本的には60年代の中南米とか、第一次世界大戦前の東ヨーロッパあたりの雰囲気。つまり、連邦(=ロシア帝国やらアメリカ合衆国やら)の支配に疲れた住民たちはより大きな自由を望むが、そのことが逆に「Noと言える」強力な現地有力者たちの寡頭政治を招いている、という感じ。だから幼いシャアとセイラも王族のように扱われている(このへんはすでにアニメ版でもランバ・ラルがセイラに「様」で呼びかけるなど、なんとなく予想はできていたところだが…)。
ところで、アニメ版でランバ・ラルの部隊にいつもラルの愛人のハモンが同行してて、部下たちもそれを疑問視するどころかハモンに唯々諾々と従っているのは何故か?、ってのは子どものころの疑問だったのですが、その問題も本巻で解消。そりゃこれだけの人物なら部下も文句言わないわな。ランバ・ラルとハモンは本巻で大幅イメージ・アップ。
逆にイメージを悪くしているのがジオン公国のご本尊、ジオン・ズム・ダイクン。アニメではなんとなく英雄として描かれているダイクンなので、子どものころの私もジオン軍の一兵卒と同様、「ダイクンは偉い人だ」と単純に考えてきたわけだが(考えてみれば20年以上も…)、こちらは実は自分をキリストに擬えるような、かなり頭のイカレたおっさんだということが発覚。こりゃデギン・ザビも「連邦に戦争仕掛けるには尚早なんだが、ほっておくと何始めるか解らんし、そろそろ殺しておかなきゃやべぇっしょ」と考えても不思議はない。
さらに言えばローゼルシア(漫画のみの登場人物。たぶんダイクンの正妻ってことなんだと思う。シャアとセイラの母である若いアストライアを目の敵にしている)のイカレっぷりも妙にリアルです。70年代に学生運動に首をつっこんでいた作者(たち)のまわりにもダイクンとローゼルシアみたいなのがいっぱいいたのに違いない。やっぱ運動家はえらくなっちゃいかんです(笑)。
安彦の最近の作品である『虹色のトロツキー』や『王道の狗』は日本の近代史を部隊にした非常にリアルな政治ドラマだったが、本書は架空の世界を部隊に、そういったリアルな政治ドラマを描き出すことに成功している。これが元々は子ども向けアニメなんだってのを誰が信じようか(少なくともアメリカ人は絶対に信じないね)。
むかしのアニメを見ていた層には、この巻だけでも読んで欲しい一冊。
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