映画『コーポレーション』ブログからリンクを頂きました

 映画『』のブログ記事「遺伝子組み換え食品に反対するインドの環境保護活動家」では、ヴァンダナ・シヴァが紹介されているのだが、「ヴァンダナ・シヴァ」という文字から私のブログのシヴァの経歴紹介ページリンクされている。
 今のところ当該記事からのアクセスはさほど多くないけど、『コーポレーション』は重要な映画なので、書いておくものだ、と思った(しかし、完成というニュースを読んだときは、これは日本では見られないだろうな、と思ったのだが…)。

 ちなみにタイミング良くシヴァ氏の新刊『生物多様性の保護か、生命の収奪か: グローバリズムと知的財産権』が出版された。
 詳しい論評は追って書くつもりであるが、なぜ第三世界の農民が今まさに香港で行われているWTO閣僚級会議のような経済のグローバル化推進プロセスに抗議するか、よく判るだろう(香港にはもちろんシヴァもいたらしい。仕事が忙しくていけなかったのは残念)。
 翻訳も(最近の市民運動系の本の_特に英語の_ひどさを考えれば)悪くない。

 映画『コーポレーション』は未見だが(京都でもやるだろうか…?)、書籍『コーポレーション: わたしたちの社会は「企業」に支配されている』は興味深く読んだ。
 「企業」のという概念の成立史については本当はもう少し複雑なんだろう(例えば『サンフランシスコ発・社会変革NPO』に若干そういう話が出てくる)と思うが、第四章のニューディール政策と企業の対立の話は面白い。日本の戦間期についても同様の視点から捉え直しが可能なんじゃないだろうか?
 また、第二章のアニタ・ロディックの話は面白い。環境や社会問題に熱心な企業として支持者を増やしたボディショップの創業者であるロディックであったが、全店にWTO反対のメッセージを掲示しようとして株主の反発を受け、結局自分の信念を曲げざるを得なかった、という逸話が紹介されている。実は、ロディックがボディショップの株を手放し、会長職も退くと表明したときに抱いた私自身の感想も、たぶん多くの人と同じように「結局成功すれば悠々自適の生活を送りたかったのかな?」というものだったのだが(まぁ、それでも世界で十指に入る大金持ちになりながら、依然としてライバル企業に移籍しようとする技術者にイスを投げつけたというだれかさんよりはだいぶマシな人間には違いないが…)、その理由が「株式会社という制度に絶望したから」だとすれば、だいぶ事態を見直さなければいけないようだ…。
 ただ、本書のような批判が効率的に機能するには、いくつかの社会条件が整っている必要があるだろう。闇雲に企業活動を批判したとしても、もはや計画経済が有効でないことは明らかであろう。また、秒単位で激変する経済を統制するためには、数年に一度の選挙というチェック機能しか持たない国家では、速度が遅すぎることも明らかに成りつつある。実際、「市民(Citizen)」という権利では、人々は政治に対して数年に一回の圧力しか及ぼせないのに対して、"Europe Inc."などの書籍が告発しているように、企業は各国の政府に対して様々な形で継続的に圧力をかけ続けているのである。
 「しかし、企業とはいってもそこで働く人は各国の市民であり国民なのではないのか?」という疑問に対して、『コーポレーション』が提示しているような事例は非常に説得力のある回答になる。現在の高度に発達した企業形態で生き抜くためには、人間はしばしば倫理を捨てなければいけないのだ。
 そこで、そういった倫理を回復するためのプログラムが必要になるのであって、企業活動を監視し、批判するようなNGO活動はその重要な要素である。実際、ヴァンダナ・シヴァや『元祖 ! アホでマヌケなアメリカ白人』におけるマイケル・ムーアはそういった役割を担っているのだし、また、この『コーポレーション』は(自己言及的であるが)そういった活動の要素である。
 残念ながら日本では、そういった活動は活発とは言えない。企業が環境に対するコストを無視し、なんとか課税や規制を逃れようとし、人命をコストに換算しようとするものだ、という本質論はまず考える必要がある。そこで次に行うべきは、企業活動を全否定して自己の潔癖を確保しようとすることでも、「そういうものだからしょうがない」と諦めて人類が破滅への坂道を転がり落ちていくのを傍観することでもなく、適切な監視と規制のプログラムを作り上げていくことが、今後の日本社会の課題である。
 映画はそれなりに話題になっているようだが、そういった「次のステップ」につながることを期待したい(ホワイトバンドもそういうもののはずなんだが、今ひとつエンジンがかかってないのは残念なことである…)。

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コメント(1)

はし :

香港のこと、どうして?とわかっていなかったので、興味深い記事でした。
映画は現在東京渋谷でみられるようですね。1月には監督のトークショーも。せっかくだから、わたしは1月に観たいと思います。シヴァの新刊も入手したし(図書館で目の前にあったので借りました、買ってません)、詳細な説明を参考に、学びたいと思います。

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このページは、かすががDecember 20, 2005 12:21 PMに書いたブログ記事です。

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