果たしてPiTaPaの割引はオトクか??

 最近はプリペイド・カードのICカード化が進んでいることは皆さんご存じの通りである。
 JR東日本の電車区間がSUICAで、西日本がICOCAだったりするわけだが、今のところパスネットという仕組みしかない関東の私鉄に対して、関西圏の私鉄にはPiTaPaというICカード・システムが導入されている。
 これは、他のシステムと違って、クレジット・カードの仕組みを使ったポスト・ペイドのカードであるのが特徴である。
 もちろん、ポスト・ペイドなので、チャージの手間がいらないのが売りであるが、いくらでも使えてしまう不安もあるし、なにより実態はクレジット・カードなわけであるから、作れない人もいるというところで敷居が高い(それでなくてもカードの与信額というのは「潜在的にしてしまうかも知れない借金」なので、収入が増えていないのにこれ増やすことは好ましいことでないという部分もある)。
 しかし、どんどん財布の中にカードが増えていく昨今、せめて通勤に使う回数券カードが一つにまとめられるというのは魅力なので、とりあえず申し込んでみたわけである。

 さて、次に気になるのは経済性である。
 私が通勤に使っている阪急と大阪モノレールを含む多くの会社線で、PiTaPa用にいくつかの割引サービスが提供されている(詳細は「PiTaPa.com 各交通機関の割引サービス」参照)。
 このうち、私が通勤に利用している阪急と大阪モノレールで利用できる割引は二種類である。

 一つは定期を買っていた人向けの「区間指定割引」サービスで、あらかじめ登録した一区間について、PITAPAを利用した乗車賃の総計が定期代を超えた時点でそれ以上課金されなくなるというものである。
 つまり、おおむね一ヶ月の定期代は(例えば大阪モノレールの場合)同区間の普通乗車賃39回分に設定されているようだが、PITAPAで一ヶ月に39回乗った場合、それ以上課金されなくなるというものである(同様に、三ヶ月、六ヶ月区分でも割引が適応される)。
 これは非常に合理的で、自分の通勤区間を登録しておけば、今月は乗車券で行くか、定期で行くかといったことを考える必要はなくなる。
 ただ、残念ながら出張も多く、また土日は滅多に出勤しない私のような人間にはあまりメリットがない(定期券や区間割引が回数券よりお得になるためには、44回乗る必要がある)。

 一方、主に回数券を利用する人には、11回以上乗車乗った場合に割引が適応される「回数割引」というものがあるのだが、こちらは若干問題が残る。
 一般的な回数券は10回分の乗車賃で11回乗れる、ということになっていると思うが、これは換言すれば0.9割引ぐらいの料金で乗れると言うことである。

 一方、PITAPAでは、
   1〜10回 通常の乗車賃
   11〜30 通常の乗車賃から1割引
   31〜  通常の乗車賃から1.5割引
 という割引率が適応されることになっている。

 これは、何回乗っても割引率が一緒の回数券と比較すれば、どこかの段階で割引率の優劣が逆転するはずだと言うことになる。
 そこで、PiTaPaでN回乗ったときの、PiTaPa一回あたりの平均乗車賃の、回数券の一回あたりの乗車賃(普通乗車賃×0.91)に対する比を計算してみたのが図である。

 これで見ると実は、回数券と比較したPITAPAの損益分岐点は43回目にやってくる。
 これは、定期券を回数券と比較したときの損益分岐点44回とあまり変わらない。

 ついでにPiTaPa回数割引と定期券を比較すると、44回以上乗ると定期券のほうがお得になるわけだが、この場合はPiTaPaにすでに定期券割引が適応されている場合が多くなると推察される(回数割引は同一運賃であれば区間が一緒ではないので、二つの同一賃金区間を頻繁に乗る場合には回数割引は若干有利になる。例えば阪急の200円区間を乗り、その後JR区間を挟み、もう一度阪急の200円区間を乗る、というような通勤スタイルの人にはPITAPA回数割引は便利かも知れない)。
 従って、回数割引はなにも考えずに乗っていれば適応されるという利点を別にすれば、結局の所「同一区間を月に43回乗る人にはお得」という、実にニッチなサービスなのである。
 あとは「回数券を買ったり、乗るたびに選んだりする手間を省ける」ことにいくら払えるか、という問題であろう(例えば月30回乗車したとして、回数券とPiTaPaの価格差はだいたい170円ぐらいになる)。

 元々関西の私鉄各線は東京の私鉄に比べて料金が高めに設定してあるし(まぁ、市場が小さいという事情はあろうが…)、しかも管轄がブチブチ切れている(特に神戸近辺が非道い)ので初乗り料金を何度も請求されるという特徴があるので、こういった割引を有効活用する必要があるわけである。
 しかし、定期券と回数券とどっちがお得かぐらいであればいいが、こうシステムが複雑になってくると「損益分岐点計算をややこしくして、「もうどうでもいいわ。払ってまえ」という気分にさせる陰謀なのではないかという気もしなくもない…。
 まぁ、先払いの上にデポジットまでさせておいて、まったく値引きをする様子のないJRよりは多少工夫しているだけ増しなのかも知れないが…(カード先払いぶんの金利だけでも、JRにどの程度の収入になっているか知りたいものである)。

 ちなみに大阪市地下鉄などの「利用額割引」は、多くの場合、他の割引に比べてちょっとばかりお得感が高い。

 いずれにしても定期には、ヨーロッパ各都市みたいに、一ヶ月定期が通常料金の15〜20倍ぐらいという思い切った値段設定が欲しいよね。
 まぁ、欧州は欧州で、住民優遇の観光客イジメ、という気もしなくもないので、あっちを立てればこっちが立たずではありますが…。

 いずれにしても、Edy、Suica、PiTaPa…、と、どんどん少額決済用のICカードが増殖していますが、これは「便利」なのか??
 といって、単一サービスに統合されて、購入履歴が丸見えというのも気分が悪いので、この程度の不便は許容すべきか…難しいところですね。

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このページは、かすががMarch 5, 2006 6:37 PMに書いたブログ記事です。

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