ベネズエラの改憲国民投票はチャベス大統領の敗北に終わる
結局、ベネズエラの改憲国民投票はチャベス案が僅差で否決ということに終わったらしい。
選挙中の段階では冗談交じりに書いてみたが、重要なトピックであるには違いないので、一応コメント。
日本の論調としては右も左も「強権的な大統領が誕生して北朝鮮みたいにならなくてよかったね」という感じだが、例えば「チャベス改憲案、小差で否決 「終身大統領」阻まれ打撃」(Asahi.com)みたいな議論は実際のところ、どうなのか?
同記事では、
改憲案は(1)大統領の任期を6年から7年に延長、1回に限られる再選を無制限に(2)中央銀行の政府管理(3)非常事態宣言の簡素化など、独裁色の濃い条項が並んでいた。
チャベス氏は99年の就任以来、潤沢なオイルマネーで、識字教育や無料の診療所建設など手厚い貧困対策を施してきた。一方でエネルギー事業の国有化を宣言し、民放局を「反政府的だ」と放映中止に追い込んだ。
現行憲法ではチャベス氏の任期は13年まで。選挙で負けなしだったチャベス氏の初黒星に、反チャベス派が勢いづくことは確実だ。チャベス氏に追随する形で資源の国家管理や改憲を進めるボリビアやエクアドルなどの左派政権にも影響が及ぶとみられる。
と述べられていたりする。
もちろん、チャベスがペロン以降の伝統的なポピュリスタ政権の流れにあり、非常にナショナリスティックで強権的だというのは事実である。
たぶん、スペインのフアン・カルロス国王ならずとも一度は怒鳴りつけたくなるような傍若無人なところもある。
そういう意味では、単純な人気投票ではなく、「社会改革を進める大統領としてのチャベスは評価するが、それと大統領権限そのものの増強は別」という「良識」をベネズエラ国民が示したことは評価すべきであろう。
しかし一方で、チャベスがわりと真面目に彼の主張するところの「21世紀の社会主義」を模索しているという点も指摘しないマスメディアもフェアではないと言えないだろうか?
強権的な権力集中という側面ばかり強調されるが、いっぽうでチャベスは積極的な分権化も進めている。
もっとも特徴的なのは数十戸の家族からなるコミュニティ会議の設置を推進し、そこに強力な決定権を与えようと言う試みである。
参加型経済などに関する著作の多いアメリカン大学のRobin Hahnelによる"Venezuela: Not What You Think"(貴方が考えているようなものでないベネズエラ)という記事によれば、これを進めるためにチャベス政権はハーネル自身や(本ブログでも触れたとおり参加型経済の先進地域として知られる)インド・ケララ州の事例に詳しいRichard Frankeや、南米ですでに参加型予算を取り入れているブラジルの活動家Marcos Arrudaをベネズエラの研究所に招き、研究を重ねてきたという。
実際、チャベスの構想ははじめて一国レベルで実現する「ケララ方式」であると言えるだろう。
この権力強化(特に中央銀行を政府の支配下に置くと言った政策)と分権化というのは一見、相反する政策に見える。
しかし、おそらく、チャベスの指向する国家像は、個々の国民の積極的な政治参加が強力な機能を持つ国家/大統領と直接結びつくことで、中間に巣くってきた南米的な政治マシーン/クライエンテリスモを排除できる、(まぁ、いわば極めてジャコバン的な)「国民国家」ということだったのではないか?
そう考えると、わりと帳尻はあうわけである。
(そして、それは、比較的彼に近い位置にいるフランス人たちの好きそうな国家像…なにしろジャコバンですから…でもあるのだが…。まぁ、それは今は問題にしないことにしておこう)。
そう考えた場合、そういう政治文化の根幹に係わる部分の処方箋を否定して、石油資源に依存したバラマキ政治家としてのチャベスだけを誉める、というのは果たして正しいことなんだろうか、という論点も提示されるべきではないか、と思ったりするわけである。
(まぁ、アメリカべったりで、事実上の「二重国家」とまで言われた石油公社を解体するというところまで批判するむきにはそういう視点は必要ないわけだが、たとえば朝日はたぶんそうじゃなかったよね??)
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