彼らが釣り竿を持たなかったのではない。我々の驕慢が彼らの釣り竿を打ち砕いたのだ

 今日のホワイトバンド・ブログ「魚ではなく釣竿をあげる」の主張はあまりに非道い。

 ほっとけない・キャンペーン全体やホワイトバンドの販売方法に問題があるのは事実ですが、年間予算規模100億円を超え、法律や経済の専門家を抱える欧米のNGOと、基本的にはシロウトの集まりで専従も満足にいない日本の運動とに同じクオリティを期待されても、と思っていました。
 しかし、今日のブログがホワイトバンド・キャンペーンの基本思想を表したものであるなら、私はこの運動は支持できないし、国際的なGCAP運動の一端を担うものとしてもまったくふさわしくないと言わざるをえません。

 ブログ曰く

小麦粉をあげる。
作り方を教える。
パン工場をたてる。
そして作ったパンを売る。
そのお金でまた小麦粉を買う。
つまり、ずっと続けていけるシステムをつくることは、
100個のパンをあげるよりもずっと効果的で、発展性があるんです。

 
 これはIMF/世界銀行であれ各国政府であれ、ずいぶん昔から言ってきたことです。
 そして、このお仕着せがましい啓蒙主義が失敗したことで、世界の貧困と環境問題は深刻さを増してきたのです。

 たとえば、このブログでも何度か繰り返してきた話をもう一度しましょう。
 インド/中近東では、農業は雨水のため池や、地中に浅く掘られた水路に頼ってきました。
 60年代後半以降、先進国は貧困を解消すると称して、この地域に井戸を掘り、大規模な水路を巡らせ、近代的な農業を普及させました。
 このとき、ほとんどが温帯にある先進国が開発した、高収量の穀物も導入されました。
 所謂「緑の革命」です。

 ところが、熱帯の自然は温帯のそれほど御しやすいものではありませんでした。
 この地方の人々が長く井戸に頼らなかった理由は、今となってはわかりませんが、井戸を掘り始めたことの問題は明白でした。
 まず、地下水脈が乱れ、水が枯渇したことにより砂漠化が急速に進みました。
 また、熱帯の太陽に焼かれて急速に蒸発する水は、かつてこの地域が海だったころの地層から塩を急速に吸い上げ、その結果多くの農地が塩害で使えなくなりました。
 先進国で開発された高収量品種は、水の吸い上げ能力が高かったために、この砂漠化を助長しました。
 同様に、このころ導入された農業機械も、伝統的な鋤より数センチだけ深く土壌を掘り返すだけでしたが、熱帯の大地にとってはこの数センチが命取りでした。

 一見、劇的に上昇したかに見える収量ですが、その背後には劣化する土壌という問題があり、この地域では年々化学肥料の投入量が増しており、その負担に耐えきれなくなった小農が借金苦から自殺に追い込まれたり、土地を負われて都市スラムに流入したりしているわけです。
 コストは年々上がっていくのに、ここ30年、穀物の国際価格はほとんど変わっていません。
 つまり、利益が上がっているのは肥料会社、種苗会社であり、現地の農民ではないのです。

 同様に、「青の革命」と称する(エビなどの)養殖技術はマングローブ林を破壊し、漁民たちから海の恵みを奪いました。
 同様に、「白の革命」と称して導入された、ミルクを大量に出す乳牛は、藁ではなく輸入配合飼料を買える少数の農家と、その輸出元である穀物メジャーに恩恵をもたらすにとどまっています。

 戦後の「援助」の歴史とは、その実、先進国の事情を第三世界に押しつけてきた歴史であると言えます。
 その後、技術の押しつけに加えて、「構造調整プログラム」と呼ばれる経済政策の押しつけが始まりました。

 GCAPの目標の第一項に掲げられているのは、実は債務ではなく「貿易の公正」です。
 一部で、これを「フェア・トレード」のことだと誤解しているブログなどありましたが、これは英語では"Trade Justice"のことであり、要するに自由貿易を前提としたWTO(世界貿易機構)体制の中で第三世界が不利な条件を余儀なくされていることを批判する際に使われる言葉です。
 WTOや構造調整プログラムは日本ではあまりなじみのない言葉ですが、第三世界の庶民は驚くほどよくその言葉を知っています。
 同様に、エンロンという名前は日本では破綻の時に初めてニュースになりましたが、第三世界では自分たちの生活を破壊するものとして、呪詛とともにその名前がかたられていました。

 こういった問題がなければ、第三世界は自立の方向に向かうのであり、第三世界の漁民たちは間違った開発や経済政策にジャマをされなければ、自らを支える技術を本来、継承し続けているのです。
 だからこそ、ウォールデン・ベローやヴァンダナ・シヴァといった、これまで紹介してきた第三世界の運動家たちは、WTOや債務という形で先進国が第三世界の社会と経済をコントロールすることを告発し、それを監視するグローバルな運動を提唱してきているわけです。

 だいたい「直接的にお金を渡す運動ではなく、政策提言型の運動である」という話と、「パン工場をあげる」という話がまったく違うのは明らかでしょう。
 後者ですむならお金は批判のあるとおり、直接現地に渡して、パンであれシャツであれ彼らが望む工場をたてればいいのであって、先進国で政策をこねくり回す必要はありません。
 パン工場をつくってあげる援助はこれまで日本もODAとして続けてきましたし、別にいまされらグローバル・キャンペーンで「政策提言」しなくても今後も続いていくでしょう。

 しかし、そうではない問題、またその援助自体が意図通り機能しないこと、途中でその意図がねじ曲がってしまうこと、そして意図と手段が現地の実情に全く合っていないことなどが問題なのです。
 グローバルにみて、過度な市場主義が環境を破壊し、第三世界の生活を破壊し、ひいては先進国の労働環境も破壊し、人間の世界をゼロ・サム・ゲームにしてしまっていることが問題になっているのです。
 だから、先進国のNGOは国際金融の知識を身につけ、第三世界の伝統について理解し、援助が適切に行われているか監視するためにこそキャンペーンのお金は使われるべきであり、もしパン工場で済むのであれば「これまでの募金とちっとも違わない」のです。

 正直、今回ホワイトバンド・キャンペーンに加わっている団体も含めて、日本の草の根援助は比較的現地のローカルな技術や環境に親和的であり、そういう事情が理解されていると思っていました。
 しかし、このブログの意見が公式見解として許容されているのであれば、残念ながら、それはまったく過大評価だったと言うことになりそうです。
 記事の最後で「貧困などの地球規模の問題が、自分たちの生活に直結している」と述べていますが、その言葉が本質的に含意する意味が、まったく理解されていないのではないかと疑わざるを得ません。

 日本は「グローバルな公正」を求める、オルタグローバリゼーション運動と呼ばれる運動から隔絶したところにあるという話はすでにしたかと思います。
 今回のほっとけないキャンペーンで、初めてそういった世界の潮流が日本にも流れ込んできたのではないかと期待していただけに、この記事は非常に残念です。

【追記】10月26日22時
 後日談の報告があります。
 「WBブログQ&Aと「魚ではなく釣竿をあげる」削除について」をご覧ください。

トラックバック(5)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 彼らが釣り竿を持たなかったのではない。我々の驕慢が彼らの釣り竿を打ち砕いたのだ

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://talktank.net/mtype/mt-tb.cgi/179

» これぞ、電通流!! -電通流情報操作極意SSU!-(ロリコンファル)~のトラックバック

先日、「実物ではなく広告で商売する。」という文章をかいた時に取り上げた、ホワイトバンド 公式サイトの10/25付けエントリ「魚ではなく釣竿をあげる。」がさっくり削除されていますね。 [http://d.hatena.ne.jp/kagami/20051026:title] [http://blogs.yahoo.co.jp... 続きを読む

» メモ(ホワイトバンドの話)。(徒然草むしり)~のトラックバック

そのうちまとめますが、現状でこんな感じで考えているのでした。みなさん、ありがとう。 1. 「ホワイトバンド詐欺」まで言うのは間違いだと思う。 1-1. 「募金ではない」については、金額の僅少さから見て、ただの思い込みからの誤解。 続きを読む

友人から頂いた日本酒で一杯やりながら書いてます。既に酔ってます。 いつも酷い誤字脱字脱線脱却理論破綻論理破綻が更に酷くなるでしょうがご容赦を。 っかですね、一日169ヒットっていう今までに無いヒット数はどうなんですかね? 10年くらい前から作っては半年くらい... 続きを読む

» ホワイトバンドについての気になる記事(JETの日記)~のトラックバック

ホワイトバンドについてはエントリーではもう書かないつもりでいたが、気になる記事が 続きを読む

» 『1981年:貧困層15億人』(BLOG バカヤマ )~のトラックバック

2001年:貧困層11億人 そして2015年:貧困層7億人 √コロンビア大学の経済学者J.D.サックス教授によれば、極度の貧困状態で暮らしている人々の数は世界全体でみれば減っているのだそうです。 ただし致命的な貧困から脱出できたのは主に東アジア圏の方々で。アフリ... 続きを読む

コメントする

このブログ記事について

このページは、かすががOctober 25, 2005 10:37 PMに書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「2ちゃんねるとパーマリンク」です。

次のブログ記事は「WBブログQ&Aと「魚ではなく釣竿をあげる」削除について 」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.27-ja