『世界の〈水道民営化〉の実態: 新たな公共水道をめざして』
前からちょこっとお手伝いしていた本『世界の〈水道民営化〉の実態: 新たな公共水道をめざして』が出版された(昨日入手)。
オランダのNGO、トランスナショナル・インスティテュート(TNI)とコーポレート・ヨーロッパ・オブザーバトリー(CEO)で原書の発刊にも係わっていた(我が友人であるところの)岸本聡子・山本奈美両氏が編集をしている、極めて正統性、信頼性の高い翻訳である。
ちなみに原書はブラジルとインドで行われた世界社会フォーラムに集まった水問題に関する活動家が、各地の問題を報告する中で生まれた本であり、社会フォーラムの「個別の運動をつなぐネットワークの形成」という側面の最大級の成果の一つであると言える。
地図をつくったり(書籍に載っているものの大元を下に置いておきます。やっぱプロは綺麗に仕上げるよね)、ケララとフランスのところを下訳したりしているので、ご紹介。
あと、写真も若干提供していて、例えば45ページがこちら(ケララ・オラヴァナの井戸)。
ちなみに下訳については翻訳者の佐久間さんに「多少は役に立ちましたか?」と聞いたところ「水問題に関係しないところは修正不要だったから…」という主旨のお返事が返ってきた orz
(でもね、言い訳すると特にフランスの章は専門用語が多くて、しかも微妙にフランス語の直訳なので、ニュアンスが読み取りがたいんですよ)
ここでも昨日の記事で触れたPublic/Privateと公/民の対立軸のずれの問題は顕在化してきて、「公営水道」というと巨大で不効率なものを想起させ、「民営」というとなにかよいものを指すような気がする。
一方英語で「民営化」はPrivatization(私営化・私有化)なので、もともとからしてやや強欲さを感じさせるイメージの言葉になっている。
政治的文脈に於ける「公益対私益」の対立では公益に有利で、経済的文脈に於いては「公営対民営」で私益に有利という、欧米よりもレーガン的なネオリベラルに有利な言語構成になってしまっているところが問題なわけである(このあたりを脱構築できないと日本の左派に未来はないんじゃないだろうか…)。
もちろん、実践的な局面では「巨大で不効率な公営に対して素早く消費者のニーズをくみ取る民間」というイメージは各国共通のもので、それがいかに裏切られ、そこからいかにしてもう一度(たぶん真の意味で)公的なものを再構築していくか、というのが本書の各章で述べられているわけである。
日本は「水と安全はタダ」と言われ、水道に対する危機感は非常に薄いと思われるが、公共空間についての議論にも資するであろうし、是非いろいろな立場の人に読んで頂きたいものである。
ということで、みなさん、水と公共性は大切に…。
以下、目次。
日本語版の読者の皆さんへ スーザン・ジョージ
日本語版前書き 編集チーム
序章:水道民営化の失敗と、代替策に取り組む各国の動き デービッド・ホール
第I部 成功している公営水道
ブラジル・ポルトアレグレ−すべての人に奉仕する公営水道
インド・ケーララ州オラヴァナ村−住民による水道運営の事例に学ぶ
スペイン・コルドバの水道運営−効率的かつ効果的な参加型公共水道モデル
フランス・グルノーブル市ー市営に戻された水道事業
米国ー水道の規制およびガバナンスの民主化
ドイツー公営水道サービス事業は後退の一途をたどっているのか?
【コラム】 ヨーロッパの二重基準第II部 新たな公共水道を目指して
ブラジル・レシフェ−市民参加でつくられる上下水道サービス
ボリビア・コチャバンバ−水戦争を経て、公営事業体と地域社会のパートナーシップへ
ベネズエラの経験ー住民主体の上下水道サービスを求める闘い
ガーナ・サベルグー潮流に逆らう地域社会管理水道
アルゼンチン−エンロン撤退で、労働者の協同組合による運営が始まった
【コラム】 水を人々の手に取り戻す ラテンアメリカからの逆風第III部 公共の水道を求める人々の闘い
ウルグアイ−「水に対する権利」を勝ち取った直接民主主義
イタリア・アブルッツォー水を守り、市民参加を求める闘い
南アフリカー水道民営化への反対闘争
フィリピン・マニラー公共水道の可能性
インドネシアー水道民営化
中国ー水道事業の民営化第IV部 これからを考える
公営水道をどう機能させるのかー次の課題
民営化の恩恵という幻想ー途上国の水道サービスに投資していない民間セクター
【座談会】 日本の水道をめぐる諸問題と住民参加の可能性日本語版編集後記
<水>問題に取り組んでいるサイト紹介
編者・執筆者紹介
ちなみに原書"Reclaiming Public Water"(英文)はネットで読める。
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