AAAS年会(ボストン 2008)

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AAAS Annual Meeting Boston 2008

 AAAS年会に参加。
 AAASは科学者による科学の振興のためのNGOで、日本では"Science"誌の発行元として有名。
 年会では、今後の科学技術の情勢について、さまざまに議論される。
 また、子どもたちによる発表や家族づれのためのイベントもあるし、院生やポスドクのためのキャリア・セミナーなども開かれる。
 クローズドのイベントとして、今後政財界に対してどのような働きかけを行うべきかといったトップレベルの会合も行われている。

 初日は、初めて参加する人向けのガイダンス(たいしたことは言わなかった)などに参加したあと、会長講演に。
 MIT(マサチューセッツ工科大)学長とボストンの科学博物館館長の講演の後、会長であるデヴィッド・バルティモア氏(カリフォルニア工科大教授 生物学)の講演。
 去年は科学の未来を考えると言うことで、インドとルワンダに出かけたらしい。
 彼によれば、現在人類の抱えている課題は二つである。すなわち、先進国が生活水準を落とさずに持続的な社会を創っていけるかと、第三世界があまり環境に対して不可の大きくない方法で生活水準を上げられるか、ということである。
 後者の問題を考えたとき、インドのような急速な成長も問題があるが、ルワンダのような状況が見落とされるのも困る、ということになる。
 ということで、ルワンダは研究開発にGDPの3パーセントを投入することを表明しており、これはアメリカより多く、韓国並みである、ということを述べた後に、ルワンダのカガメ大統領が登壇した。

 こうした流れからも解るとおり、AAAS全体として(なにしろテーマが"Science and Technology from a Global Perspective"である)環境や貧困に焦点を当てたシンポジウムなどが非常に多い。
 特に「持続的な」とか、「アフリカにおける」とついていることが多いし、マイクロファイナンスなどの議論も積極的に行われている。
 内容にすべて同意出来るわけではないし、もちろん大多数の科学者はそんなこと考えているわけではないのは日本と大して変わらないと思うが、「科学者の会合」でこの規模の議論が維持出来るというのが凄いところだと思う。
 あと、「公衆衛生」という議論が普通に行われるのが日本との違い(日本はもっと疫学的な議論を導入すべきだと思う)。
 それでも敢えて突っ込みを入れれば、視点が巨視的で、開発の現場からすれば見落とされている問題は幾つもある、ということになると思う。

 二日目の午前中に見たシンポジウムは"Upstream Engagement"(上流での関与)で、政策的決定がなされてしまう前に市民が議論に関与することの重要性が強調されていた(このあたりの議論の状況を知ることが、今回の最大の目的なわけですが…)。
 議論されたのはフェルミ国立大型加速器研究で計画されているILCという新型の加速器の問題、乳ガンに関する患者Advocateの問題、および(おそらく今一番ホットな)ナノテクのELSI(倫理的、法的、社会的側面)に関する問題の三つ。
 特に、量子力学に関しては、90年代初頭にSSC(超伝導超大型粒子加速器)建設が当時のアメリカの経済的な苦境などもあって中止に追い込まれたことへの反省によって、科学者たちが極めて熱心にアップストリーム・エンゲージメントに取り組んでいる様子がうかがわれた。
 あと個人的に印象に残ったのは、乳ガンに関する関与の人種的な違いで、白人は「専門家」も「Advocate」もたくさんおり、アフリカ系アメリカ人は人種構成を考えると白人以上にAdvocateは多いが専門家がほとんどいなく、アジア系住民は専門家はそれなりにいるが、Advocateになる人がまったくいない、ということらしい。
 コミュニティへの関与が少ないというのは、日本だけでなく、アジア全般の問題なのだろうか?

 その他、マイクロファイナンスに関するシンポジウムや、なぜ科学コミュニケーション教育が必要か、といったシンポジウムにも出席。

 各大学や研究機関が出しているブースに関しては、日本でもあり得るものだと思うが、欧州委員会から憂慮する科学者同盟まで、パンフレットだけでなく、ちゃんと値段を付けて売っていそうな本を配っていて凄い。
 特に、全米科学アカデミーが環境問題から宇宙開発から科学政策から、物量作戦で凄かった。
 諸事、お金があるんだなぁ、というのが印象。

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このページは、かすががFebruary 16, 2008 9:00 PMに書いたブログ記事です。

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