AAAS年会(ボストン 2008) 3日目

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 ちょうど4日目が終了したところですが、とりあえず3日目の報告。

AAAS Annual Meeting Boston 2008

 朝一番に"Advocacy in Science: Oppotunities, Limits, Responsibilities, and Risks"というシンポを見る。様々なジャンル(自然科学だけではなく、心理学や環境史など)の専門家団体がどのような問題について、どういうふうに議論しているかの実践報告。
 ブリティッシュ・コロンビアの林業について、同地域の環境史団体が提言を行った、という話などが興味深い。

 終わりまで見ずに、"Anternative Careers in Science, Technology, Engineering, and Math"に移動。こちらは学生風の参加者で会場満員。立ち見も出ている。
 要するに、広頃からやりたいことに幅を持たせて、ロールモデルになるメンターを捜して、積極的にコミュニケーションしろ、という話。まぁ、アメリカだからといって特別な秘密があるわけではないが、ふつうに学生が参加するところで、こういう議論が定期的に行われているということが重要なんだと思う。
 ちなみに講師はドクターを取った跡、大学のアドミニストレーションで学生支援とかを中心に働いているという黒人の女性。
 肝心の「オルタナティヴ・キャリア」の事例としては、企業に勤めるほかに、ライター、ロビイストやNGOといったところが強調されるのが特徴。日本ではそのあたりは全然「オルタナティヴ」にならないからなぁ。

 で、AAASアワードの授賞式を経て、午後はそのロビイストになるワークショップにも参加してみた。
 その前に"Research and Technology at the Crossroads of the Debate on Biopiracy"に。
 研究のさいにこういった問題をどう避けるか、というノウハウが中心の話であるにもかかわらず、他のシンポジウムに比べると明らかに閑古鳥。
 こういう問題をきちんと扱うシンポジウムがあるというだけでも凄いと言えないこともないが、アメリカでも研究者全般はそういうことに関心がないのだ、ということも確からしい。
 バイオ工業会の人が概況を説明した後、弁護士が個別の問題について議論。
 「私は実務家だから政治的な問題と法的な問題は分けて、前者についての価値判断はいたしません」と最初に断りながらも、伝統文化が勝手に使われることそのものが「搾取」であり、かつ地域文化の担い手と第三世界政府の見解は必ずしも一致しないという点や、先進国がDVDの複製を「パイラシー」と非難することの鏡像としてバイオパイラシーがあるのだという議論についてもきちんと解説していて、非常にフェアであると感じる。
 こういうこと、日本政府や業界団体が絡んだシンポジウムでは、まず議論されないよね。

 で、ロビイスト講座である。
 たぶん将来大統領もねらえそうな貫禄(笑)の若い白人男性がワシントンで科学者がロビイングするというのはどういうことか、という概況を説明した後、別の白人男性が実践ワークショップ(二人とも実際、自然科学系のロビイスト)。
 以下、簡単にレポート(記憶に頼っているので、数字や話の順番などに間違いがあるかと思いますが、雰囲気を読み取って頂ければ幸いです)。

「今日、覚えて貰う数字が2つあります。最初は11万。この数字がなんだか解りますか?」
「選挙区の有権者の数?」
「有権者の数はもう少し多くて、XX万ぐらいですね。でもいい発想です。これは、下院議員が当選するのに必要な得票数です。だから、貴方がロビイストだとしても、『あなたの意見』は11万分の1の価値しか持ちません。一方で、11万人が共感する意見には、どんな議員でも耳を傾けざるを得ません。これは民主制の宿命です。
「では、当選するために、議員はどんなことをしなければいけないのでしょう? 例えば次のような質問があります。あなた方ならなんと答えますか? 問い1、好きな映画はなんですか? 問い2、貴方のヒーローは? 問い3、貴方がリラックスする過ごし方はなんですか? では、そこの貴方、好きな映画は?」(と、3つの問いを適当に参加者に聞いて回る。参加者、それぞれに答える)
「ありがとうございます。ここにいる皆さんは全員落選です。では、カリフォルニアから来た人は手を挙げてください」(数人が手を挙げる)
「では、その皆さんはアーノルド・シュワルツェネッガーがこの問いにどう答えているか知っていますか?」(誰も答えられない)
「そういうことにも注意を払うことは大事ですよ。皆さんはシュワルツェネッガーが誰かは知っていますね? そう、州知事です。他には?」(「ボディビルダー、とか、ケネディ家のメンバーと結婚している、とか返事)
「うーん、ロビイストになるさいに必要な情報はあまり出てきませんね(笑)。みなさん、もっと頑張ってください。さて、彼の返事は、知事選挙戦中のX月X日にラジオ放送されたインタビューでは、次のようなものでした。好きな映画、『ライオン・キング』。ヒーローは、クリント・イーストウッド。リラックスすること、ワイフとショッピング。さぁ、ここから彼がどんな有権者をターゲットにしているか解りますね。『ライオン・キング』を好きなのは誰?」(「子どもたち?」)
「そう、子どもたち。だから若いお母さんは必ず『ライオン・キング』を見ています。たぶんDVDを持っていて、今まで何回も再生している。そういう人たちに、自分たちと同じだと思わせる。良かれ悪しかれ、選挙で勝つと言うことはそういうことです」
(中略)
「次の数字は7です。これは何?」(誰も答えられない)
「こっちは少し難しいですね。平均的な下院議員のオフィスには1日あたり250件の電話がかかってきます。この電話対応のために、平均4人のスタッフが雇われています。ということは、貴方が議員の事務所に電話をかけたとき、一人当たりの持ち時間は7分強ということです。7分で貴方の提案を過不足無く伝えなければ行けない。できますか?」
「あるいは、メディアに問題を取り上げて貰うのもロビイストの仕事です。夜のニュースで読み上げられる文字の量はだいたいこんなところです(と、A4で2枚いっぱいに文字が印字された紙を見せる)。ここから天気予報が消えます(と、紙の末端を破って、参加者の一人に手渡す)。生活情報の時間もありますね(とさらに破って、別の参加者に渡す)。のこりの部分から3つ4つのニュースが伝えられるわけです(と、また紙を破る)。そうすると、トップニュースでこれくらい(と、5〜6行になった紙を見せる)。特集でもこれくらいでしょうか(と、もう少し多めに残った紙を見せる)。これがIn-Depth!!(会場、笑い)。科学者はだいたい、科学ニュースが正確でないと嘆きますが、5〜6行で貴方の研究をちゃんと要約出来るか、一度やってみてください。でも、それができなければ、決してメディアは正確に取り上げてくれません。」
「さて、下院の任期(2年)のあいだに、何本の法案が提出されるか知っていますか? 1,000? もうちょっと多い。7,000です。このうち、幾つの法案に大統領が署名(成立)するでしょうか? 400です。しかも、その大半は大して意味のない法案です。例えば先週通過した法案を上げてみましょう。XX博士の業績を顕彰する法案(そのほか幾つか上げられるが、忘れました)。XX博士が誰か知っている人?(会場、笑い)。誰も知らないみたいですね。」
「待って、待って。それは提出された7,000の一つというわけではなくて…」
「そう。通過した400の一つです。議員がやっている仕事の大半はこんなもんです。国民の生活に直結するような法案は、このなかで30にもすぎないでしょう。皆さんの仕事は、この7,000の法律候補のひとつを、30のなかに滑り込ませることです。少年野球の選手をメジャー・リーガーにするのとどっちが簡単か、というのは興味深い問題です。それがロビイストの仕事だと思ってください」

 …実践的だなぁ、おい(笑。

AAAS Annual Meeting Boston 2008

 で、そこも途中で抜けて、この日のメイン・イベント「Clinton vs Obma」へ。
 それなりに大きな会場が用意されていたが、満員で、司会者の「科学者は政治に関心がないという話はどうも間違いみたいですねぇ」というジョークからスタート。
 ヒラリー・クリントン側の代理人はビル・クリントンの政策顧問も務めていたという貫禄のあるおっさん。それに対してオバマ側はシカゴで移民や貧困層に対する技術教育のNGO活動をしていたという若い男性(両方白人)。ある意味、両陣営の状況を象徴している。
 オバマ氏は科学に理解があるのか、という質問に対して、代理人は自分のNGOを初めて熱心に支援してくれた上院議員がオバマであったことなどを説明していた。
 ただ、話の内容は実はあまり面白くなくて、よく考えるとこの二候補に科学技術に関する政策上の相違点はあまりないのである。
 とはいえ、司会が「どうもお二人ともブッシュ政権を仮想敵にしているようだが、事実上共和党側の候補に決まっているマケイン候補は環境保護にも熱心だし、幹細胞研究も推進派で、そういった相手と比較するとなると、今日おっしゃっていることは大きな争点ではないのではないか?」と突っ込まれたり、それなりに面白い展開はなくはなかった。
 また、「科学教育に力を入れるか?」という質問の答えが最も差異を明らかにした点であった。
 クリントン側は、イノベーションが経済のキーであることを延べ、実際の製品化などで日本や欧州に負けているという点や、中国などのエマージング・カントリーの研究能力が向上しているという認識があるとしたうえで、それでもアメリカが世界随一の研究開発能力を維持しており、これをさらに向上させていくことはクリントン政権の最重要課題になると述べた。
 それに対して、オバマ側は、昨今の世界情勢を考えれば、科学技術の問題はグローバルであり、アフリカ系の父を持ち、インドネシアで暮らすと言った経験を持つオバマこそこのグローバル性を理解している候補であると延べ、貧困層、マイノリティ、移民といった人々に対する教育こそが今後の世界を支えるのに最も重要な問題だ、という見解を述べた。
 クリントン側の見解には盛大な拍手が起きたが、オバマ側の議論には、ややためらいがちな拍手に留まったのが印象的であった。

 ということで、環境やアフリカといった巨視的な問題から、直近の選挙まで、AAASではあらゆる政治的課題が網羅されているという印象である。
 ただ、日本人として気になるのは、BSE(狂牛病)の話題はプログラム上にいっさいないことである。
 ここまですっきりしていると、ある種の作為を疑いたくなるが、たぶん本当に関心がないのであろう(厳密に言えば、関心を示すことに利益を感じる団体がないのであろう。このあたりが多元的ガバナンスの限界、という感じもする)。

 4日目もまた面白かったのだが、それは追って…。

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このページは、かすががFebruary 18, 2008 3:28 PMに書いたブログ記事です。

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