反G8サミット・デモに関する追記 デモで逮捕者が出る理由

 「札幌デモ(チャレンジ・ザG8 市民ピースウォーク7.5)で逮捕者…について」がやや言葉足らずだったとおもうので、少し補足します。

"Challenge the G8 Peace Walk"

1)何故、逮捕者が出たのか?

 今のところ、逮捕はあらかじめ予定されていたものである可能性が高いと思っています。
 もちろん、私自身が一般市民より多くの情報を持っているというわけではない(まぁ、多少はマシかな、ぐらいな)ので、確かなことは言えません。
 ただ、DJの逮捕に関して、デモ申請の時はDJ一人としていたのに、交代のためにもう一人が荷台に乗り込んだ瞬間に「二人乗った」ということで逮捕されたと言うことのようですから、まぁ、狙っていたと考えるのが妥当でしょう。
 また、先のエントリーで示したように逮捕者を出すとしたらサウンドデモ・エリアだ、という配置に最初からなっていたのは明らかなように思われます。


No G8 Action Network Opening Ceremony of the International People's Solidarity Days
 では、何故逮捕者を出したいのか、ということです。
 それは第一に、逮捕というスペクタクルによって、それ以外の抗議活動を隠蔽するため、ということがあるでしょう。
 前日の講演で「債務ブーメラン」などの概念を提唱したことで有名なスーザン・ジョージが強調していたのは「デモは逮捕されないようにやらなければならない」ということです。
 彼女の主張では、デモで逮捕者が出てしまうと、メディアはその瞬間ばかりを放映します。
 G8やWTOの会議のさいは、市民運動側も「オルタナティヴ・フォーラム」と呼ばれる集会を開き、活動報告や政策提言を展開するのが慣例になってきています。
 また、デモでもそういった主張のプラカードが掲げられるので、デモのシーンが一渡り撮影されれば、視聴者はそれを見ることもできます。
 しかし、そういったことはメディアではほとんど報じられません。
 もちろん、これをメディアの責任とすることは簡単ですが、社会運動側の工夫不足もあるでしょうし、なにより「それを報じても視聴率や売り上げは上がらない」という状況があります(こういう言い方が適切かどうかは議論のあるところですが、「視聴者側のメディア・リテラシー」という問題は避けて通れないかと思います)。
 ブロゴスフィアやJanJanのようなネットメディアは多少マシな状態にはありますが、それでも十分な情報が流通しているとは言い難いでしょう。

International People's Solidarity Day

 Mixi日記なんかでデモの報道の感想をつらつらと読んでいたのですが、「デモなんかより公民館なんかを使って議論する時間を作ればいいのに」という提案がいくつか見られました。
 まったく大賛成ですが、実はそれらはすでに行われているのです。
 スーザン・ジョージ、インドでナルマダ・ダム群建設の反対運動の指導者として有名なメーダ・パトカル、第三世界のスポークスパーソンとも言われるウォールデン・ベローなど、国際的に有名な学者や活動家の発言ですら、日本ではほとんど報じられません。
 また、各国の労組、ATTAC、オックスファム、グリーンピース、CADTM、ジュビリーサウスといった団体が代表(その多くは若者であり、またデモにも参加していました)を送り込んできています。
 しかし、それらが報道されることはほとんど無く、逮捕の瞬間にばかり注目が言ってしまうと言うことです。

"Public Meeting against G8 Summit"

 じゃあ、デモなんかやらなければいいじゃないか、という議論もあるかと思うのですが、やはり「人数が集まった」という実績がないと報道もされません。
 また、会議室で理路整然と議論を展開できる人しか社会問題についてクレームをつけたら行けないのか、という問題もあります。
 そういう意味で、デモは「誰でもとりあえず参加でき、不満の意志を示すことができる」という点において非常に有用なデモクラシーのツールであるということはできると思います。

 もう一つには、やはり日本において逮捕されることのコストは極めて高いと言うことでしょう(補足: コストが高いので、逮捕によって一般の人のデモ参加をけん制する効果がある、ということ)。
 通常、先進国において被疑者が理由もなく長期拘留されることはほとんどありませんが、日本では三週間程度拘留されることが一般的になっています。
 これは、例えば三週間職場を休むということを意味するわけで、日本の職場環境を考えれば、多くの場合失職に追い込まれる、かなり高いリスクを甘受しなければ行けないと言うことでしょう。
 また、逮捕即犯罪者、とみる人が大手メディアも含めて少なくなく、それだけでスティグマを背負わされるという事情もあるでしょう。
 鳩山邦夫法務大臣が志布志事件について、「冤罪と呼ぶべきではないと思う」と述べたことが社会問題になったことがあります。
 もちろん、志布志事件に関しては無罪判決が出ており、判決まで罪は確定しないという原則に従えばこれは鳩山氏の言うとおり厳密な意味での「冤罪」ではない点には同意できるでしょう。
 しかし、そうだとすれば国や法務大臣という職にある鳩山氏には、「逮捕や起訴だけでは犯罪者として扱ってはならない」という一般原則をもっと啓蒙する必要があるのではないでしょうか?
 国(や大手メディア)がそういう努力を十分に払っているとは、とうてい思えないところです。
 例えば、デモのときに逮捕されたロイターの記者はすでに釈放し、起訴されないとのことですが、現行犯逮捕であるにもかかわらず起訴されないと言うことは、現場においてなんらかの事実誤認があったということでしょう。
 その点について、警察が釈明も謝罪もせず、またメディアの報道もほぼないというのは、奇妙な状況といわざるを得ません。


2)何故、サウンドデモが狙われるのか?

 やはり「影響力」を重視しているのかという気はしています。
 今回も、踊っているデモ隊が沿道に向かって「いっしょにやろうよ」と声をかけていて、声をかけられた女性二人(たぶん大学生)がちょっと悩んだすえにデモ隊に紛れ込んだというシーンを目撃したので、まぁ、そういうのを嫌っているのかなという気はします。
 今回はそれでも歩道側の警備は比較的甘かったのですが、渋谷なんかでやると、歩道側をきっちり埋めて、むしろ観客が紛れられないように警備をするというケースも見られます(チラシを渡すのも妨害されたりするわけです。しかしそういう過剰警備には「税金の無駄遣い」という批判がほとんど起こらないのは困ったことです)。
 もちろん、一般的な労働組合型の「デモ」で大学生が飛び入り参加なんてことは普通ありませんから、そのへんの「一般市民への訴求力」が公安のサウンドデモへの過剰反応の理由なのかなという気がしています。
 もしそうだとすれば、公安も意外と勉強しているなぁ、という感じがするわけです。
 買いかぶりかもしれませんが…他にこの状況の理由は考えられないよね?

 ついでにいうと、

"Challenge the G8 Peace Walk"

 を見ていただくと、今回逮捕されたのが日本人だけなのが奇妙な感じです(千歳空港の入管で韓国人が一人逮捕されていますが)。
 屋根に飛び乗ってる白人のにいちゃんを公務執行妨害でひっぱってもおかしくない感じがするじゃないですか(そんな理由で引っ張れないだろ、というのであればDJ交代で道交法違反も十分おかしいでしょう)。
 たぶん、今回は「日本人(っぽいやつ)だけ限定的に逮捕」という指令が出てたんじゃないかと思います。
 先に述べた日本の「三週間以上拘束」システムはヨーロッパ諸国からは人権侵害に見えますし、もし外国人を逮捕してそういうことになったら、その国の政府は抗議声明を出さざるをえないということになります。
 それがG8のメンバー国(や、インド、中国、ブラジル、南アなどの准メンバー国)だったりしたら、かなりややこしいことになりかねません。

 なので、少なくとも今回のデモについて言えば(逮捕理由が妥当だったかどうかは別にして)最初からかなり戦略的に練った上で決行された逮捕だったのではないか、と思っています。
 

 ちなみに、現場でどのような議論が行われているかについては、以下のような本を読んでいただけると良いと思います。

徹底批判 G8サミット
ATTACフランス コリン・コバヤシ 杉村昌昭

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【追記】
 それと、はてなブックマークのshibusashiさんへの応答です。
 サミットそのものへの「反対」理由は一枚岩ではないと思いますが、大枠としてはG8を問う連絡会(G8 Action Network)への賛同の呼びかけを見ていただくといいんじゃないでしょうか。
 (ただ、これを作成したのはわずか数ヶ月前ですが、そのときとでもすでに国際的なアジェンダ設定が変わってしまっているところもあり、食料や燃料問題をきちんと指摘できていないなど、若干外している部分はありますが…)
 最新の声明文としてはは「北海道サミットを最後のG8サミットにしよう G8を問う連絡会「国際民衆連帯DAYs」参加者による宣言」を参照してください。

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このページは、かすががJuly 11, 2008 5:26 PMに書いたブログ記事です。

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