ホワイトバンド雑感： 報道などを受けて
「ホワイトバンドを巡る議論についての覚え書き」に関しては、この地味なブログにしては驚くべき量のレスポンスをもらったと思います。コメントもきちんと返せていませんが、貴重なご意見として読ませていたいています。まぁ、これというのも（こういっちゃなんですが）「ほっとけない」サイトがやや頼りなさすぎるせいかな、という気もします。もともと日本で常勤のいる国際関係NPOはわずかですし、今回のホワイトバンドも（たぶんこんな大事になるとは思っていなかっただろうから）やっとかき集めた NPO関係者とバイトで慌てて回しているという感じなんでしょう。
ただ、そうはいってもネット上に溢れている反感のうち、多くの部分は少なくとも理論的にレスポンスを返せるはずのものですね。２ちゃんねるなどでずいぶん叩かれているキャンペーンですが、その中には当然の疑問も散見されます。（もちろん悪意だけで叩いている人もいるので、そのへんの峻別は重要ですね）例えば、なぜこれまでの援助は問題だったのか、どう方向転換しないと行けないのか、など、すでに欧米のNGOで分析が進んでいるところは（読者がそれに納得するかどうかはともかく）、もう少しきちんとした説明を出していけたはずです。
また、ブログでも「世銀ＩＭＦ、最貧国向け債務を全額免除」と、新聞記事をそのまま報じていますが、こういう数字を発表通り信じられるものであるかのようにそのまま流しちゃうのは問題でしょう。というのも、前回のジュビリー2000のときの債務削減でも、「債務削減されたら返済額が増えた」という珍妙な事態に陥った国があると報告されていたり、金融の問題はテクニカルな誤魔化しがいくらでも可能です。そのあたりの評価・監視体制を作り上げられなければ、せっかくのキャンペーンも価値が半減するということになるでしょう。そのあたりの情報や分析をすぐに出せないのは、欧米のNGOとは規模が一桁も二桁も違うのでしょうがないのですが、新聞の記事にリンクをつけて、なんの留保もつけていないというのはいささか…。
事務局体制が弱い中でよくやっているほうだというのは理解できるのですが、やっぱり東京タワーでイベントやっている暇があったら論文を書け、と思って…しまうのは私が市民運動かと言うよりはアカデミシャン指向だからですかね…。
さまざまなレスポンスの一つですが、日刊バカヤマ採掘記： ホワイトバンドとブラックベルトからトラックバックをいただきました。
「バランスシートをゼロに戻したあと、どうするかを考える」べきだというのと、「気になったのは運動の対象になった国々の人がどう思っているのか、まったく情報がないこと」という指摘は非常に重要です。
このあたり、日本ではまだまだ情報が少ないですね（第三世界の知識人は英仏西語で書くので、欧米人はリアルタイムである程度状況を把握できるわけですが、日本だと翻訳というプロセスをかまさないと行けないのが辛い）。フランスなどで市民運動の機関誌を見せてもらうと、アフリカの人が書いた文書がそのままのっていたりするのが、非常にうらやましい（原稿依頼を出すのも楽ですしね）。
ただ、それでも昨今は多少の翻訳が読めるようになってきて、例えば「第三世界のスポークスマン」と見なされるウォールデン・ベロー（フィリピン／フォーカス・オン・グローバルサウス）の『脱グローバル化』や、70年代以降の開発援助の失敗をいち早く指摘したヴァンダナ・シヴァ（インド／ナヴダーニャ）の『緑の革命とその暴力』などは日本語で読めます。英語にアレルギーの無い方はマーティン・コー（マレーシア／第三世界ネットワーク）"Rethinking Globalization"など、Zed Booksのペーパーバックがオススメです。
また、これらの問題に関する議論は、このウェブログでも何度か触れている で大々的に論じられます。世界社会フォーラムは、毎年1月に（多くの場合は第三世界のどこかで）開かれるNGOの世界大会といったもので、全世界からおよそ10万人が集まって、さまざまな問題に関する会議を持ちます。ここで、第三世界からもそれぞれの国が抱えている問題が提起されます。今回ホワイトバンド・キャンペーンに参加しているオックスファムやアクション・エイドなどもこの会議に参加しているので、第三世界から要望はそういった場でプログラムに反映されることになります。
この会議での議論についてまとめたものが『もうひとつの世界は可能だ』で、第三世界のNGOからのものも含めた、政策提言が総覧できます（そのほか著名な参加者については世界社会フォーラム日本連絡会（ちなみに筆者、ホワイトバンドは関係者ではありませんが、日本連絡会の事務局のお手伝いはさせていただいております）作成のFAQ「例えばどんな人が参加していますか」を参照して下さい。第三世界からの参加者も活躍しているのが判ると思います）。
来年は、「2006年世界社会フォーラム、アフリカ会場決定」でも触れたように、今年は初めて「多中心世界社会フォーラム」ということでカラカス（ベネズエラ）、カラチ（パキスタン）、バマコ（マリ）の3カ所で1月末に開かれます。マリのアミナタ・トラオレ（元文化大臣）なども第三世界問題に関する論客と見なされていますし、もちろんカラカスではウゴ・チャベス大統領の演説を聴くことができるでしょう。単なる観光に飽き足らない方や学生などはこういう機会を捉えて出かけてみるのも悪くないと思います。
でも、ここだけの話、日本のホワイトバンド賛同団体でも、社会フォーラムのような場に代表を送っていない団体ってけっこうあるように見えます（知らないだけだったらごめんなさい）。予算の少ない団体はしょうがないんですが、大きいところに関しては、自分たちが支援に入っている国だけじゃなくて、世界全体でどういう状況にあって、それを今後どうしていくか、という議論に加わるるのも、個別の地域で活動するための重要な下準備であるような気がしますが…。まぁ、そういうことも含めて、今後の課題は大きいと言うことで…。
ちょっと放談気味で、一部にご不快に感じられる方もいらっしゃるかと思いますが、とりあえず現状での雑感ということで…。
【追記】
記事をアップした後にもう一度「世銀ＩＭＦ、最貧国向け債務を全額免除」をチェックしたら日本の新聞記事へのリンクだけじゃなく、記事全文とGCAPの発表"Reaction to IMF and World Bank announcement on debt cancellation"へのリンクが追加されていた。
…せめて訳そうよ。
というわけで、以下、GCAP声明の私訳。公式声明がでたら削除か差し替えします。
GCAPスポークスマンのCollins Magalasiは「今日の発表は前向きな最初のステップであるが、より多くのことがなされる必要がある」と述べた。我々は、18の貧困国に対してIMFと世銀のが持っている債務の完全な帳消しに対する、彼らの支持を、正しい方向への最初の小さなステップとして歓迎する。
今日、IMFと世銀の出資者たちは多くの貧困国が、もし彼らが貧困に立ち向かおうとするならば、100パーセントの債務帳消しを必要としていることを認識した。
今、彼らはこの認識を実行し、100パーセントの債務帳消しを必要としているすべての貧困国にもたらさなければいけない。
彼らは同様に、債務帳消しに付随した、有害な条件も除去しなければならない。世界中の、無数のキャンペーン参加者たちが、世界の指導者たちがこの問題に対処するように呼びかけ続けてきた。
これらのキャンペーン参加者たちは今、約束されたことに確かな前進があるかどうか、事態を見守っている。
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